田母神問題−戦前と変わらぬ体質の自衛隊

 航空自衛隊トップの田母神俊雄・航空幕僚長が更迭された。
 田母神氏はアパグループの懸賞論文に応募し、最優秀賞に選ばれた。論文「日本は侵略国家であったのか」の要旨は以下のとおりである。(朝日新聞11月1日付けから抜粋)

 『日本は朝鮮半島や中国大陸に一方的に軍を進めたことはない。日清戦争、日露戦争などによって国際法上合法的に中国大陸に権益を得て、これを守るために軍を配置した。
 我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者だ。日本政府と日本軍の努力で(満州や朝鮮半島の)現地の人々は圧制から解放され、生活水準も格段に向上した。
 日本はルーズベルトの仕掛けたわなにはまり真珠湾攻撃を決行した。
 大東亜戦争後、多くのアジア、アフリカ諸国が白人国家から解放された。日露戦争、大東亜戦争を戦った日本の力によるものだ。
 東京裁判は戦争責任をすべて日本に押し付けようとした。そのマインドコントロールが今なお日本人を惑わせている。自衛隊は集団的自衛権も行使できない、武器の使用も制約が多い、攻撃的兵器の保有も禁止されている。がんじがらめで身動きできない。このマインドコントロールから開放されない限り、我が国を自らの力で守る体制がいつになっても完成しない。
 多くのアジア諸国が大東亜戦争を肯定的に評価していることを認識する必要がある。我が国が侵略国家だったなどというのはぬれぎぬである。』

 私は論文の詳細を議論するつもりはない。航空自衛隊トップが政府見解に反する意見を公然と発表するという自衛隊が全く文民統制されていない事実を心配するのである。

 先程、「たかじんのそこまで言って委員会」を見た。この番組はうるさいばかりなので通常は見ないが、子供が見ていたのでついでに見た。惠とかいう元自衛官が出て来て、昭和50年代に不審船がいた時の対応を上層部に連絡してもまともな指示が来ないという自衛隊上層部の批判や阪神大震災のときに出動要請が遅れて、死者が増えたので、自衛隊の部隊判断で出動できる態勢が必要だとか、種々述べていた。

 日本政府自体がいい加減な組織であるから自衛隊員が危機感を持つのは分かる部分もある。金丸信が1990年に北朝鮮を訪問したとき、金丸は金日成をべた褒めしていたように思う。日本周辺で不審船が跋扈していた時、日本政府は北朝鮮との揉め事を避けるために不審船の逃走をわざと許した事もあったように記憶している。

 しかし、政府や自治体の長がいくら無能だからと言って、自衛隊の幹部が政府見解に反するような事を表明することは文民統制に反する。そもそも、帝国陸海軍時代からそうなのであるが、日本の軍部は意志が一つに統一されていなかった。幹部がそれぞれ勝手なことを言って行動する。陸軍と海軍もばらばら。二二六事件では青年将校が勝手に軍を動かす。そもそも軍内部に皇道派とか統制派とか、派閥があること自体問題であるし、両派とも政治を動かそうとしたこと自体が問題である。どういう意味で問題か。文民統制されていないということである。

 帝国憲法では、軍の統帥権は天皇にあったが、軍政に関する規定が明確でなく、これがある意味で軍部の勝手な行動や軍内部の派閥活動を許すことになった。

 そういう意味で仮に全うな事を発言したとしても政府見解に反することを自衛隊幹部が意思表明することは許されないことである。
 さらに今回の件で問題なのは、本懸賞論文に応募したのが田母神氏だけでなく、航空自衛隊員の応募が計94人であり、応募総数235人のうち、4割が隊員だったことである。その原因は、航空幕僚監部教育課が全国の部隊に「幹部の研さん」のため、本懸賞論文応募をファクスで紹介していたことである。
 このことについて「現時点で、田母神氏の指導だったという事実はない」と言っているが、自衛隊幹部の個人的見解と意志に基づいて、自衛隊という組織を動かしたとなれば、戦前の将校が私物化した軍隊と何ら変わらないではないか。

 個人的には、極東国際軍事裁判に全く正当性はないし、アジアの植民地化にしても日本は欧米列強に対抗しただけだと考えている。そもそも当時、白人から見れば遅れた国を植民地化するのは当然の行いであり、植民地化自体をとやかく言われる時代ではなかった。B,C級戦犯の裁判では、人道に反する罪とか何んとか言うが、20〜30年前のつい最近まで黒人を人間とみなさなかったアメリカごとき国、非戦闘員を大量殺戮したアメリカに人道を口にする資格はない。要するに極東国際軍事裁判は茶番劇であった。

 田母神氏の考えで理解できる点は確かにある。しかし、文民統制は絶対であり、これを破ることは戦前の二の舞になるのである。そういう意味で平気で文民統制を破るという実績を残した田母神氏の責任は非常に重い

 もう一点は、田母神氏は論文の中で「タイで、ビルマで、インドで、シンガポールで、インドネシアで大東亜戦争を戦った日本の評価は高いのだ。・・・・・・我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣である。」と述べているが、これは自分に都合のいい意見だけを聞いているだけである。日本は白人と一緒になって他国の領土の分捕りあいをやったのである。ここでなぜ日本だけがいつまでも責められるのかを考えなければならない。同じアジア人であることが最も大きな原因であろう。同じアジア人なのに、白人化して他国を植民地化する日本これに対する反感が今でもあるのではないか

 要するに白人にはぺこぺこして、同じアジア諸国を馬鹿にして横柄に行動する日本国レベルでも個人レベルでも現在でもそうではないか!

 田母神論文の致命的な欠点は、いくら日本の正当性を主張しても、その評価をするのは侵略された国々であることを忘れている点である。自分に都合の良い意見だけを羅列しても駄目であろう。

 しかし、政府の対応も非常に拙い。定年退職で辞めさせておきながら退職金の自主返納を求めるなどはないだろう。こんないい加減な政府であることを田母神氏は世間に知らせたかったのかもしれないが。また、公務員である自衛隊の航空幕僚監部教育課が全国の部隊に「幹部の研さん」のためといって、懸賞論文応募をファクスで紹介すること自体、異常であろう。自衛隊幹部は当然国家公務員であり、その一員が意思表明することは事前に政府見解に反しないことを確認すべきであるべきであるし、危険予知すれば、そんな投稿をさせること自体がまずいということに気が付かないのか。 

 自衛隊は市民運動の情報収集をする一方で、自分自身の行動に対して全く統制の取れていない行動。一体、このアンバランスは何なのか。
 糞みたいな単なる税金無駄使い集団ではないか。
 戦前の体質と何ら変わっていない。田母神論文も私と同程度の幼稚な主張である。

 話は変わるが、今日、NHKスペシャルの録画「戦士はどう戦わされてきたか」を見た。
 米軍兵士だった人間への取材を基にしていたが、殺された人間も悲惨なら殺した人間も悲惨であることを示していた。帰還米兵の中には、戦闘時の殺人によるPTSDに悩まされている人間が多く存在する。その根本は、“俺は人を殺した”という罪の意識である。PTSDによる兵士の精神の変調は第一次世界大戦の頃からあったという。軍律に厳しいヨーロッパでは、そういう兵士は戦場逃亡で銃殺されたりもしたらしい。
 アメリカでは兵士がPTSDにならないように訓練に工夫を重ねているらしいが、おかしな世界である。人を合法的に殺すことが許されること事態がおかしなことだと何故気づかないのか。最前線に送り込まれるアメリカ兵の顔はまだ皆少年の面影を残していた。これが、人道を主張する国のやることなのか。 

 白人世界。これは世界を滅ぼすろくでもない人間集団だと思う。今必要なのは、欧米とは違う世界観を持ったアジアの結束と主張なのであるが、日本にはそのリーダーシップを取る力量もなければ、アジア諸国の信頼感もないのである。情けない国、日本!

 田母神氏の主張では、日本は何も変わらない。

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